ロコモティブシンドローム

名戸ヶ谷病院 整形外科副院長、整形外科部長
日本ロコモティブシンドローム研究会 委員長
大江 隆史(おおえ たかし)

ロコモティブシンドロームとは主に加齢による運動器の障害のため、移動能力の低下をきたして、要介護になっていたり、なる危険の高い状態のことです。ロコモティブシンドロームは移動能力の低下に着目した概念ですから、すでに疾患に侵されている状態から、その危険にさらされている状態までを包括する概念です。ロコモーションは移動能力、ロコモティブは移動能力を有するという意味の英語で、蒸気機関車はSteam Locomotive、SLです。

ロコモーションと聞いて1962年にLittle Evaが歌って全米のヒットチャート1位になった歌を思い出される方も多いと思います。その後1974年にはGrand Funkというグループのカバーで再度全米のヒットチャート1位になりました。ちなみにこの曲の歌詞にあるロコモーションは実はLoco-Motionで、ロコな(機関車のような)モーションの(動きの)の新しいダンスを踊ろうという意味です。

認知症が認知能力の障害を意味するように、ロコモティブシンドロームという新語は移動能力の障害を意味します。機関車は力強さを連想させ、前向きな感じを与えます。ロコモティブシンドロームは人々に覚えて使ってもらえるための言葉なので、否定的な表現を避け、略してロコモと呼んでもらえるようになっています。2007年秋中村耕三先生(東京大学大学院 医学系研究科・医学部教授 整形外科学講座)と私で相談して作った新語です。以来中村先生は日本整形外科学会の活動としてロコモの普及に努められ、私もそのお手伝いをしてきました。2008年5月、日本ロコモティブシンドローム研究会を旗揚げし、その仲間で集中的に議論し知恵をしぼり、中村先生とともにロコモの自己点検法、自己対処法を提案しました。これらは2009年4月、日本整形外科学会から発表されています。
 

65歳以上の人口の推移

ロコモティブシンドロームの意義

加齢とともに介護を必要とする「要介護状態」になる割合は高まります。日本における高齢化の進行は団塊の世代をはじめとする戦後の出生率の高かった世代が高齢化し終える2020年まで急速に進み、65歳以上の高齢者人口は2005年の2500万人から2020年には3500万人と僅か15年でおよそ1000万人増加し、高齢化率は30パーセントになると推計されています。これは世界に類を見ない特異な現象です。年齢ごとの要介護状態になる割合が今のままだとすると、高齢者人口の増加に伴い要介護状態となる高齢者も急増します。