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水頭症について
順天堂大学医学部附属順天堂病院
脳神経外科 先任准教授
宮嶋 雅一 先生
水頭症が疑われれば、頭痛・嘔吐・意識障害などの症状を観察し、CT・MRIなど断層撮影を行います。また正常圧水頭症では、歩行障害・認知症・尿失禁などの症状を観察し、CT・MRIなど断層撮影に加え髄液タップテスト(髄液排除試験)を試みます。
水頭症の治療は、症状を引き起こしている原因によって選択されます。水頭症の多くは、脳室系に閉塞があるか、髄液の吸収が低下していることが原因となっています。そのため過剰にたまってしまう髄液量を減らしたり、調整する必要があります。
手術としては基本的にシャント手術、また病態によっては内視鏡的第三脳室底開窓術(図9以下に説明)が行われます。多くの場合は、拡大した脳室にカテーテルを挿入し、髄液を他の体腔に流して脳圧をコントロールするシャント術を行います。
最近では正常圧水頭症などの交通性水頭症は腰椎−腹腔シャント術が適応されます。
このような手術は、全身麻酔下で1時間程度を要します。脳外科の中では難易度は高くないもので一般的に行なわれています。
また近年、非交通性水頭症には内視鏡的脳室底開窓術が行われる症例が多くなりました。これは内視鏡で覗きながら第三脳室の底に穴をあけ、脳室内と脳表くも膜下腔の間にバイパスを作る手術方法です。
バイパスを通過した髄液は正常な循環路に入り吸収されていきます。シャントチューブを留置する必要がなく安全な手術ですが、非交通性水頭症のみの適応となっています。
シャント術は、いずれも体内に異物を入れるためトラブルが生じることがあります。一番懸念される合併症はシャントの感染症です。図9はシャントトラブルを示したものです。
シャント術後の合併症には、シャントチューブ自体の機械的トラブルと機能的トラブルがあります。
シャントチューブ自体のトラブルとしては、シャントチューブが異物などによってつまる、シャントバルブが何らかの衝撃によって破損する、シャントチューブが切れるなどがあります。これは小児・成人ともに起きうるシャント機能不全です。
また機能的トラブルとしては髄液の過剰排除による頭痛などの低髄液圧症状、スリット状脳室)、硬膜下血腫発生などと、シャント感染があります。
生活上の注意事項としては、頭をぶつけたときなどに起こりうるシャントバルブ破損と頭痛や意識の状態、肥満や便秘によるシャント流量不足による頭痛・めまい、感染に伴う発熱やシャントチューブ埋没(まいぼつ)部の発赤(はっせき)に留意して状態を観察する必要があります。
水頭症そのものの予後は、シャントシステムが上手く機能している症例では、多くの場合脳機能が回復し症状も改善します。シャントシステムが閉鎖することのないように管理して行く必要があります。現在はシャントの流量不足や過剰排除を予防する為に、シャントバルブに様々な工夫がなされています。
また水頭症を現す原因の病気がある場合は、その原疾患に対しての治療が必要に応じて行なわれます。
シャントシステムの選択は、臨床症状に応じて圧を変更する必要があり、原則的には圧可変式シャントバルブシステムが推奨されます。長身で痩せた患者にはサイフォン効果防止機構を組み込むことが考慮する必要があります。
現在本邦で使用されているバルブは、圧固定式バルブ、圧可変式バルブ、重力可変式バルブです。またサイフォン効果防止を目的として特殊機能バルブがあります。主なバルブの特徴を下記に示します。
主に低圧、中圧、高圧の三種類の開放圧を特徴としており、病態に応じて選択されます。
1990年代中頃より体外からの圧可変を可能とする可変式差圧バルブが登場しました。現在本邦では多くの施設で最も使用されています。
体位により圧設定を自動的に変更し、脳室内圧を生理的範囲内に維持することで、流量調節に関する問題の解決を意図したバルブです。この機構により、流量不足の危険を高めることなく、流量過多を回避することが期待できます。
圧可変差圧バルブで最大設定圧によってもシャント流量過多症状、所見の軽快が得られない場合には、サイフォン効果防止装置である特殊機能バルブの追加設置を検討する必要があります。
※ 先生方のご所属・肩書などは、執筆いただいた当時のものです。